顔のケガ

はじめに

みなさんは大切な顔にケガをされた経験がありますか?特に子どもさんは活動性が高いため、転倒して顔のケガをすることは多いと思います。一言でケガといっても種類は様々ですが、他の場所と違い顔は整容性が最も重視されるため、より慎重で専門的な治療が必要です。ここでは、顔の部位ごとに注意するケガの症状と治療について解説します。

Ⅰ.頭部のケガ

転倒などで頭部をケガすることはよくあると思いますが、特に血管が脆くなっている高齢者では頭蓋内に出血を伴うことがあり、早めに医療機関を受診することが大切です。頭部の皮膚は血流がよいため、ケガをした際にはキズの印象よりも多く出血することがあります。出血が多い場合はキズの上からガーゼなどで圧迫することで対処できますが、頭部は皮膚のすぐ下に骨があるためケガの衝撃で深いキズになりやすく、縫合処置が必要になることがあります。被髪部では医療用のホッチキスを用いることも多いですが、挫滅が強いキズや毛根が傷んでいるキズでは治癒後に脱毛をきたすことがあるため、傷んだ組織を除去した後に丁寧に糸で縫合することもあります。脱毛が生じた場合でも、形成外科的な修正術や植毛術で目立ちにくくすることが可能ですので、形成外科の受診をおすすめします。

Ⅱ.額のケガ

額もよくケガをする場所の一つです。皮膚の下には前頭筋と呼ばれる眉毛を挙上させる筋肉があり、強い衝撃が加わるとこの筋肉まで断裂することがあります。こめかみに近い場所では、顔面神経という運動神経が皮膚のすぐ下を走行しているため、深いキズでは神経損傷を伴うことがあります。神経が損傷されると前頭筋が麻痺して眉毛の挙上ができなくなるため、できるだけ早めに神経を縫合する必要があります。神経縫合には、通常医療用の顕微鏡と直径が0.02mmから0.05mmほどの細い糸を用いるため、比較的大きな病院で顕微鏡の手術に慣れた専門医でないと治療ができない場合があります。

Ⅲ.眼周辺のケガ

眼の周辺のケガで最も注意しないといけないのは眼の機能ですが、眼球や視神経に直接キズがなくても、眼の周囲の骨の骨折(眼窩骨折といいます)によって、複視(ものが二重に見える)が出現することがあります。骨折の中でも、眼を動かす筋肉が骨折部に引っ掛かるタイプでは、吐き気や気分不良といった症状が強く、早期に手術が必要になることがあります。時間がたってから眼が奥に引っ込んだような印象(眼球陥凹)になることもあるため、眼の周囲をケガした場合はレントゲンやCT検査を受けることをおすすめします。また、まぶた周辺をケガした場合は、時間の経過とともにひきつれが強くなり、眼が閉じにくくなることがあります。そのほか、眼の内側のケガでは涙小管と呼ばれる涙の通り道(涙道)を損傷することがあります。そのまま放置した場合は、涙の流れが停滞して流涙をきたすことがあるため、断裂した涙小管を縫合した後に、閉塞を防ぐためのシリコンチューブを留置することがあります。

Ⅳ.鼻のケガ

鼻は顔から最も突出しているため、転倒した際にケガをしやすい部位です。鼻腔から出血している場合は、根元の骨(鼻骨)が骨折していることがあります。鼻骨骨折の整復は受傷後1から2週間以内に行う必要があり、骨折部の偏位が強い場合は鞍鼻(鼻の根元が低くなる)や斜鼻(鼻が左右にずれる)といった外鼻変形が残るため、早期に専門病院でレントゲンやCT検査を受けることをおすすめします。鼻の先端付近には骨はありませんが、皮膚の下には軟骨があり、外鼻の形態を保つ役割を果たしています。軟骨の損傷がある場合はのちに鼻孔の狭窄をきたすことがあり、軟骨移植などの形成術が必要なことがあります。

Ⅴ.頬のケガ

頬は頬骨と呼ばれる骨の突出があるため、強い衝撃を受けた際にはこの骨が骨折することがあります。通常頬骨骨折は頬を構成する骨が複数箇所で折れるため、骨折後の変形が頬部全体におよびます。受傷直後は頬部の腫れが目立つことから変形がわかりにくいのですが、腫れが引いていくと頬部の突出がなくなり平坦な印象になります。骨折の程度が強ければ開口制限や複視といった症状を伴うほか、知覚神経に影響がおよぶと頬部から鼻、さらに上口唇までしびれることがあります。通常全身麻酔下に骨折部の整復とプレート固定の手術が必要ですが、その際には口の中や眼の周囲を切開し、術後のキズあとが目立ちにくいように配慮します。頬部の深いキズでは、目の周囲の筋肉や頬の筋肉を動かす顔面神経が損傷されることがあります。キズの場所によっては、損傷された神経を縫合しないと目が閉じにくくなったり、口元がゆがんだりといった麻痺が残る場合があります。また、耳の前方には耳下腺と呼ばれる唾液をつくる組織があり、深いキズではこの組織を損傷することがあります。丁寧に修復しないと唾液の排出が悪くなるほか、キズの治りが遅れる場合があります。そのほか、皮下脂肪の挫滅が強い場合はキズあとが陥凹することがありますが、キズあとや陥凹が目立つ場合は後日修正することもできます。

Ⅵ.耳のケガ

耳には皮膚のすぐ下に軟骨があるため、浅いキズでも傷口から軟骨が露出することがあります。軟骨の修復が十分にできない場合や軟骨が欠損している場合は、耳の輪郭が崩れてメガネをかけづらくなるなど、生活に支障がでることがあります。軟骨の欠損が大きい場合は、ほかの部位から軟骨を移植する手術もできますが、きれいな形の耳をつくるには熟練した技術を要しますので、専門病院でご相談ください。

Ⅶ.口周辺のケガ

口唇周囲のケガでは、口を動かす筋肉の一つである口輪筋の断裂をきたすことがあり、きちんと修復しないとつっぱりやひきつれの原因になります。縫合が必要なときは、赤唇と呼ばれる赤い粘膜部分と皮膚の境界がずれてしまうと、粘膜と皮膚の色が異なるため非常に目立つキズあとになることがあります。後日修正することは可能ですが、キズが落ち着くまで通常半年程度待つ必要があります。また、口周囲は物を食べるときやしゃべるときによく動くため、キズが落ち着きにくい場所です。体質にもよりますが、キズあとが肥厚性瘢痕やケロイドになることがあり、専門的治療が必要になることもあります。

文責: 徳島大学医学部形成外科 准教授 安倍 吉郎徳島大学医学部形成外科 准教授 安倍 吉郎

   
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