はじめに

日常生活の中で、また仕事中にケガをすることはみなさんも経験したことがあると思います。浅い傷は傷跡(キズあと、瘢痕)も残らずに治ると思いますが、深いキズをおった場合は治るまでにかなり時間がかかったりキズ跡が残ったりします。はじめにキズの種類や治療法の解説をします。それぞれのキズは専門医が詳しく解説します。

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キズができるにはその原因が重要です。なんでケガをしたかによってキズの種類が決まります。今回は日常よくありがちなキズの種類を原因とともに解説します。

1)切り傷(切創)
多くは鋭利な刃物などが原因です。包丁、カッターナイフ、また紙のへりで切ることもしばしば経験します。
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2)すり傷(擦過創:さっかそう)
いわゆるすりむいたキズです。
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3)うち傷(打撲創,挫滅創)
強い力で皮膚が圧迫されることでできます。
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4)刺し傷(刺創)・異物
針などするどい物が刺さってできるキズです。またこの時に刺さったものの一部が体内に残留すると皮下異物ができます。
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5)やけど(熱傷)
熱湯などの高温物質や低温物質、化学物質が皮膚に付着して生じます。
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浅いすり傷(キズ)は約2週間以内に治り、ほとんど傷跡(キズあと)が残らない場合があります。また深いキズではその跡が残ります。皮膚は大きく考えると浅い部分の表皮と深い部分の真皮でできています。表皮の深い部分に基底細胞というものがあり、これが細胞分裂して細胞を積み上げて表皮層を作っています。最後は角質となって自然にはがれていきますが、だいたいこのサイクルが約4週間であると言われています。この表皮層がうまく再生できればキズあとは残らないことになります。真皮の中には毛や汗腺など皮膚の付属器と呼ばれる組織があり、その部分には表皮基底細胞があります。そのため真皮の浅い深さまでの損傷であれば、真皮にある毛や汗腺から表皮が伸びてきて表皮層を再生します。しかし真皮の深い部分まで損傷が及ぶと、真皮の中の付属器の密度が減って表皮の再生が遅くなります。さらに皮膚がすべて損傷されると、表皮成分が全くなくなるので表皮再生は行われません。この場合、真皮や皮下脂肪および筋肉などから線維芽細胞というものが増殖し、肉芽(にくげ)を形成してキズを治そうとします。肉芽がある程度皮膚表面の高さまで盛り上がると、その周囲の皮膚から表皮が伸びてきてキズを覆ってくれます。この肉芽によってキズが治るとキズあとが残ることになります。つまりキズあとがつくのはケガの深さが深い場合です。また、浅いキズでも感染を起こしたり適切な治療が行われなかったりすると、キズあとが目立つ場合があります。さらに体質があり、他の方よりキズあとが目立つ方もおられます(傷跡の治療の解説はこちら)。

キズの状態によって、私たちは様々な方法で治療を行います。
代表的には薬を塗って治療する外用療法、最近多くの素材ができた創傷被覆材をキズの上に貼る被覆療法、キズに対して外科的に治療する手術療法、キズに陰圧をかけて治療する陰圧閉鎖療法などがあります。それぞれを解説します。

1)外用療法
キズに薬を塗って治す方法です。塗り薬には多くの種類があり、特に日本は欧米に比べて塗り薬の種類が多く使えます。キズを早く治す薬(肉芽形成促進薬)、感染したキズを治す薬(抗菌薬)、キズを保護して治す薬(保湿薬など)を用います。また、薬の性状によってキズからでる水分を保持するものや吸収するものなどがあり、キズの状態によってこれらを組み合わせて使い分けています。キズの状態と合わない薬を用いると、かえって治りを遅くすることもあり、専門医の適切な判断が必要です。
2)創傷被覆材による被覆療法
あとで述べるキズを湿潤環境にすることで治癒を早める材料が多くあります。創傷被覆材もその一つで、その種類は多くキズの状態で使い分けが必要です。また多くの材料はキズを密閉してしまうので、感染があるキズに用いると感染が悪化することがあります。キズからは滲出液(しんしゅつえき)という水分成分がでますが、キズによって多く出る場合と少ない場合があり、その状態で材料を選択します。滲出液が多くて創傷被覆材の中に液がたまりすぎると、皮膚全体がふやけてしまいキズの治りが遅くなることもあります。時々一度貼ると1週間くらい貼りっぱなしでよいといわれていることもありますが、当然経過をみながら貼り続けてよいのか、それとも早く交換したほうがよいのかなどを適切に判断する必要があります。
3)手術療法
深い切り傷などは、縫合したほうが早く治ります。また打撲などで皮膚が壊死(えし)した場合では、壊死した部分を除去して皮膚を移植するなどの方法を行うこともあります。
4)局所陰圧閉鎖療法
深くて治りにくいキズができた場合に用います。専用の機器があり、キズの部分にスポンジや綿をあててテープで密閉し、そのテープに穴をあけて専用のチューブにつないで陰圧(空気を吸引する)をかけることで、キズの治りを助けます。特に滲出液の多い場合には有効です。キズは湿潤環境でないと治りにくいのですが(後述),滲出液が多すぎても治りにくくなります。陰圧をかけることでキズからの滲出液を吸い取り「適切な」湿潤環境を維持して、肉芽形成が促進されるのです。ただし、密閉するので感染したキズには用いにくく、その場合は生理食塩水などでキズを洗いながら陰圧をかけるという特殊な治療法を行うこともあります。

30年以上前は、キズを乾燥させて治すことが一般的でした。以前は抗生物質などが少なく、感染対策からこの考えが強かったと思われます。動物実験でキズを湿潤環境で治す方が早く治るという報告がでて以来、キズは湿らせて治そうとする考えが一般的になってきました。この考え方により、先に述べた創傷被覆材が発達しました。しかし、この考えを誤解して、キズの回りの皮膚がふやけるぐらいまで湿潤にすると、かえって治癒は遅くなります。また感染があるキズを湿潤にすると、感染を悪化させることがあります。このため、感染がある場合には、一旦乾燥させて感染をおちつかせてから湿潤環境にすることもよくあります。基本的にはキズは湿潤環境で治しますが、私たちは「適切な」湿潤環境を考えて治療法を選択しています。

キズを乾燥させていた時代は感染との戦いでしたので、以前はキズの消毒を必ず行っていました。しかし、消毒薬がキズの治癒を妨げることや、キズを水道水などで洗うだけで感染が十分にコントロールできるという報告が相次ぎ、今ではキズを積極的に消毒することは減りました。ただ、消毒薬が皮膚の菌を減らすことは間違いないので、感染が強いキズにはいまでも消毒をすることはあります。すなわち状況に応じて消毒をするかどうかを専門医は適切に判断しているのです。

キズを専門に診ている医師はなかなかいませんし、それを外に向けて表示している医療機関も少ないと思います。一般的には形成外科、外科、皮膚科、整形外科の医師にキズの治療が得意な医師がいると思います。中でも形成外科はもともと体の表面のケガや、腫瘍(できもの)、先天異常などを診る専門医集団です。そのためキズの治療はその基本でありキズを治療することが得意な医師が多いと思います。
キズは適切に治療すれば日に日に良くなっていきます。そのため逆に治療をすすめてもキズの治りが悪い場合、治っていく感じがしない場合はよく担当医と相談した方が良いでしょう。キズを診るのが得意な医師であればなぜ治りが悪いのかも十分説明してくれると思います。患者さんの栄養状態が悪かったり、糖尿病のコントロールが悪い場合、動脈硬化などで血管がつまり、血流が悪かったり、キズの部分の感染がひどかったりするとキズは治っていきません。専門医であればそのような状態にも目を配ることができ、患者さんに説明をしていきながら一緒に治療を考えていくと思います。

文責: 産業医科大学病院形成外科 診療教授 安田 浩産業医科大学病院形成外科 診療教授 安田 浩

   
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